特別預言者エリヤ
バアル信仰が蔓延る北イスラエル
北イスラエル王国のアハブ王の時代(BC918年~897年)、王が隣国のフェニキアの王女イゼベルを王妃に迎えるとともに、異神バアル信仰がもたらされました。王はバアルの神殿をつくり、象牙細工で華麗な宮殿を造営するなど、権威を振るっていました。北イスラエルには、バアル信仰が広がり、イスラエル本来の神(ヤハウェ/唯一神)は忘れ去られそうになっていました。
実は、モーセが十戒を授かって以来、イスラエル民族は異神を崇拝することや偶像崇拝をすることは禁じられていました。イスラエル民族は自らの神に対し、背信行為をするようになってしまったのです。
これに真っ向から立ち向かったのが、特別預言者エリヤでした。聖書の記録を見ると、エリヤは、干ばつを起こしたり、死んだ子を蘇生させるなど、奇蹟を起こす力を持っていました。
エリアの非難と避難
エリヤはバアル信仰による国の堕落を見過ごすことができず、激しく非難しました。「私が仕えているイスラエルの神は、確かに生きておられる。私が告げるまでの数年の間、一滴の雨も降らず、露も降りないであろう(旧約聖書/列王記上17章1節)」と預言をしてエリヤは姿を消しました。
その後、現実に雨が降らず、領地は干ばつに襲われました。これに怒ったアハブはエリヤを探して殺そうとしました。
エリヤはヨルダン川の東側の荒野に逃れ、川を見つけて水を飲み、毎日カラスに食べ物を運んでもらいながら生きていました。
カラスに養われるエリヤ
主の言葉がエリヤに臨んだ。「ここを去り、東に向かい、ヨルダンの東にあるケリトの川のほとりに身を隠せ。その川の水を飲むがよい。わたしは烏に命じて、そこであなたを養わせる。」エリヤは主が言われたように直ちに行動し、ヨルダンの東にあるケリトの川のほとりに行き、そこにとどまった。数羽の烏が彼に、朝、パンと肉を、また夕べにも、パンと肉を運んで来た。水はその川から飲んだ。
小麦粉と油の奇蹟
やがて、干ばつがひどくなると、川も干上がってしまいました。神はエリヤに、シドンのサレプタに行くよう指示しました。
エリヤはサレプタで、今にも餓死しそうな女性に出会いました。信仰が厚いやもめの女性(夫に先立たれた女性)でしたが、エリヤがパンを求めました。しかし、女性は、食糧は底をつき、手許にある小麦粉と油では、自分と息子のために最後のパンを作ることしかできないからと断わりました。
すると、エリヤは、私の言葉とおりにすれば、小麦粉も油も、いくら使っても尽きることはないだろうと告げました。このときから、彼女の家の壺は粉で、瓶は油で満たされて減ることはありませんでした。
しばらくたって、その川も涸れてしまった。雨がこの地方に降らなかったからである。
また主の言葉がエリヤに臨んだ。「立ってシドンのサレプタに行き、そこに住め。わたしは一人のやもめに命じて、そこであなたを養わせる。」彼は立ってサレプタに行った。町の入り口まで来ると、一人のやもめが薪を拾っていた。エリヤはやもめに声をかけ、「器に少々水を持って来て、わたしに飲ませてください」と言った。彼女が取りに行こうとすると、エリヤは声をかけ、「パンも一切れ、手に持って来てください」と言った。
彼女は答えた。「あなたの神、主は生きておられます。わたしには焼いたパンなどありません。ただ壺の中に一握りの小麦粉と、瓶の中にわずかな油があるだけです。わたしは二本の薪を拾って帰り、わたしとわたしの息子の食べ物を作るところです。わたしたちは、それを食べてしまえば、あとは死ぬのを待つばかりです。」
エリヤは言った。「恐れてはならない。帰って、あなたの言ったとおりにしなさい。だが、まずそれでわたしのために小さいパン菓子を作って、わたしに持って来なさい。その後あなたとあなたの息子のために作りなさい。なぜならイスラエルの神、主はこう言われる。主が地の面に雨を降らせる日まで、壺の粉は尽きることなく、瓶の油はなくならない。」
やもめは行って、エリヤの言葉どおりにした。こうして彼女もエリヤも、彼女の家の者も、幾日も食べ物に事欠かなかった。主がエリヤによって告げられた御言葉のとおり、壺の粉は尽きることなく、瓶の油もなくならなかった。
蘇生の奇蹟
その後、女性の息子が病気で急死してしまいます。女性がエリヤを責めると、エリヤは「主よ、この子の命を元に返してください」と祈り、息子を生き返らせました。
エリヤが子供を蘇生させる
その後、この家の女主人である彼女の息子が病気にかかった。病状は非常に重く、ついに息を引き取った。
彼女はエリヤに言った。「神の人よ、あなたはわたしにどんなかかわりがあるのでしょうか。あなたはわたしに罪を思い起こさせ、息子を死なせるために来られたのですか。」
エリヤは、「あなたの息子をよこしなさい」と言って、彼女のふところから息子を受け取り、自分のいる階上の部屋に抱いて行って寝台に寝かせた。彼は主に向かって祈った。「主よ、わが神よ、あなたは、わたしが身を寄せているこのやもめにさえ災いをもたらし、その息子の命をお取りになるのですか。」彼は子供の上に三度身を重ねてから、また主に向かって祈った。「主よ、わが神よ、この子の命を元に返してください。」
主は、エリヤの声に耳を傾け、その子の命を元にお返しになった。子供は生き返った。エリヤは、その子を連れて家の階上の部屋から降りて来て、母親に渡し、「見なさい。あなたの息子は生きている」と言った。女はエリヤに言った。「今わたしは分かりました。あなたはまことに神の人です。あなたの口にある主の言葉は真実です。」
このように、エリヤは奇蹟を行う力を備えていました。奇蹟を使ったエリヤの活躍の中での圧巻は、カルメル山でのバアル神との対決でしょう。
エリヤが再びアハブ王に現れる
エリヤが奇跡をもって、干ばつを起こしてから3年目、人々は飢饉に苦しんでいました。神はついにエリヤをアハブ王のもとに引き返させました。そして、エリヤはアハブに対し、バアル神と主なる神(=イスラエルの神)と、どちらが本当の神か決めるため、カルメル山にバアルの預言者450人を集めるよう王に求めました。
アハブはエリヤを見ると、「お前か、イスラエルを煩わす者よ」と言った。エリヤは言った。「わたしではなく、主の戒めを捨て、バアルに従っているあなたとあなたの父の家こそ、イスラエルを煩わしている。今イスラエルのすべての人々を、イゼベルの食卓に着く四百五十人のバアルの預言者、四百人のアシェラの預言者と共に、カルメル山に集め、わたしの前に出そろうように使いを送っていただきたい。」
アハブはイスラエルのすべての人々に使いを送り、預言者たちをカルメル山に集めた。
祈りで火を付けた預言者の神が本当の神
対決は、イスラエルの神の預言者エリヤ(1人)とバアル神の預言者(450人)たちの間で行われました。まず、それぞれの神に1頭ずつ雄牛を献げ物として準備し、薪を集めて、裂いて祭壇に供えます。そして、火を使わずに、祈りで火を付けた預言者の神が本当の神であるというルールです。
エリヤは更に民に向かって言った。「わたしはただ一人、主の預言者として残った。バアルの預言者は四百五十人もいる。
我々に二頭の雄牛を用意してもらいたい。彼らに一頭の雄牛を選ばせて、裂いて薪の上に載せ、火をつけずにおかせなさい。わたしも一頭の雄牛を同じようにして、薪の上に載せ、火をつけずにおく。そこであなたたちはあなたたちの神の名を呼び、わたしは主の御名を呼ぶことにしよう。火をもって答える神こそ神であるはずだ。」
民は皆、「それがいい」と答えた。
バアル神、現れず
エリヤが順番を譲ったため、先手は、バアル神の預言者となりました。献げ物の雄牛を祭壇に準備し、祈り始めました。しかし、何の兆候もありません。そこで、バアルの預言者たちは、祭壇の周囲を跳び回り、バアルの名を叫びました。それでも、祭壇の薪には火は付きませんでした。ついには、バアル神の預言者たちは、狂ったようになり、刃物で自らの体を傷つけてまで応えてもらおうとしました。しかし、何の兆候もありませんでした。
半日が経過し、エリヤは言いました。「おまえたちの神は眠っている!」
エリヤはバアルの預言者たちに言った。「あなたたちは大勢だから、まずあなたたちが一頭の雄牛を選んで準備し、あなたたちの神の名を呼びなさい。火をつけてはならない。」
彼らは与えられた雄牛を取って準備し、朝から真昼までバアルの名を呼び、「バアルよ、我々に答えてください」と祈った。しかし、声もなく答える者もなかった。彼らは築いた祭壇の周りを跳び回った。
真昼ごろ、エリヤは彼らを嘲って言った。「大声で呼ぶがいい。バアルは神なのだから。神は不満なのか、それとも人目を避けているのか、旅にでも出ているのか。恐らく眠っていて、起こしてもらわなければならないのだろう。」
彼らは大声を張り上げ、彼らのならわしに従って剣や槍で体を傷つけ、血を流すまでに至った。
真昼を過ぎても、彼らは狂ったように叫び続け、献げ物をささげる時刻になった。しかし、声もなく答える者もなく、何の兆候もなかった。
イスラエルの神、現れる
バアルの預言者たちが疲れ切って音を上げると、エリヤは主なる神(=イスラエルの神)の祭壇を修復しました。そして、周囲にいた民に頼んで4つの瓶に水を満たしました。そして、火をつけるはずの祭壇と薪に、瓶の水をかけました。
エリヤは静かに主なる神に祈り始めました。するとすぐに天から火が降り、薪を燃やし、献げ物の雄牛を焼き尽くし、さらには石と塵も燃やしてしまいました。
エリヤはすべての民に向かって、「わたしの近くに来なさい」と言った。すべての民が彼の近くに来ると、彼は壊された主の祭壇を修復した。
エリヤは、主がかつて、「あなたの名はイスラエルである」と告げられたヤコブの子孫の部族の数に従って、十二の石を取り、その石を用いて主の御名のために祭壇を築き、祭壇の周りに種二セアを入れることのできるほどの溝を掘った。
次に薪を並べ、雄牛を切り裂き、それを薪の上に載せ、「四つの瓶に水を満たして、いけにえと薪の上にその水を注げ」と命じた。彼が「もう一度」と言うと、彼らはもう一度そうした。彼が更に「三度目を」と言うと、彼らは三度同じようにした。水は祭壇の周りに流れ出し、溝にも満ちた。
献げ物をささげる時刻に、預言者エリヤは近くに来て言った。「アブラハム、イサク、イスラエルの神、主よ、あなたがイスラエルにおいて神であられること、またわたしがあなたの僕であって、これらすべてのことをあなたの御言葉によって行ったことが、今日明らかになりますように。
わたしに答えてください。主よ、わたしに答えてください。そうすればこの民は、主よ、あなたが神であり、彼らの心を元に返したのは、あなたであることを知るでしょう。」
すると、主の火が降って、焼き尽くす献げ物と薪、石、塵を焼き、溝にあった水をもなめ尽くした。
これを見たすべての民はひれ伏し、「主こそ神です。主こそ神です」と言った。
エリヤは民に、バアルの預言者を殺すよう命じ、民は喜んでエリヤに従い、キション川のほとりで、邪心バアルを崇拝する預言者450人が処刑されました。
そして、エリヤはアハブに、間もなく待望の雨が降ることを告げました。そして、アハブが宮殿に戻りる頃には、大雨が降り出し、3年も続いた干ばつは終わりました。
エリヤの昇天と洗礼ヨハネ
アハブ王の死から間もなくすると、エリヤは火の馬に引かれた火の戦車で天に上げられました。マラキ書によれば、エリヤは、メシアの到来を告げるために再び地上に来ると記録されています。
エリヤの昇天
ユダヤ教では今日に至るまで、過越祭で「エリヤの杯」と呼ばれる一杯のぶどう酒を用意します。そして家族の中で最も小さい子供に戸口を見に行かせ、エリヤがメシヤの到来を告げていないか確認させています。
新約聖書には、洗礼者ヨハネの弟子が、イエスにメシヤなのか確認しようとしたとき、イエスは洗礼ヨハネこそ「来るべきエリヤ」だと言っています。
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