聖書と歴史の学習館

イエスの12弟子・12使徒神の国実現に向けて、特別に選ばれた12人

The Last Supper
Leonardo da Vinci 1495 - 1498
01/03

イエスの12弟子(12使徒)とは

イエスには多くの弟子がいましたが、その中から特別に選ばれた12人の弟子は「12弟子」と呼ばれています。12弟子は、ペテロをやアンデレなどガリラヤ出身の漁師が多く、徴税人のマタイや熱心派(反ローマ帝国の過激派)のシモンなどがおり、イエスからその教えを学びました。

イエスの昇天後、12弟子はイエスの教え「福音」を伝えるために、各地で布教を行ないました。そのため、12弟子は「送り出された者」という意味で「12使徒」とも呼ばれます。

※日本語で「使徒」と訳されていますが、ギリシャ語では、「大使」「派遣された者」「送り出された者(使者)」などの意味があります。つまり、イエス・キリストを王とする「神の国の大使」であり、宣教のために「派遣された者」であり、キリストを知らない人へ送り出された「使者」といえます。

新約聖書

イエスは十二人の弟子を呼び寄せ、汚れた霊に対する権能をお授けになった。汚れた霊を追い出し、あらゆる病気や患いをいやすためであった。

十二使徒の名は次のとおりである。まずペトロと呼ばれるシモンとその兄弟アンデレ、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネ、フィリポとバルトロマイ、トマスと徴税人のマタイ、アルファイの子ヤコブとタダイ、熱心党のシモン、それにイエスを裏切ったイスカリオテのユダである。

新約聖書/マタイによる福音書10章1節~4節
©日本聖書協会/新約聖書 新共同訳


02/03

イエスの12弟子(12使徒)一覧

ペトロ(シモン・ペテロ)

 

ペトロ(シモン・ペテロ)

●アンデレの兄 ●漁師 ●ガリラヤ・ベトサイダ出身

主にローマで布教。イエスから天国の鍵を授かり初代教皇に。ローマ皇帝ネロの迫害を受け、逆さ十字架にて殉教。

アンデレ

 

アンデレ

●ペテロの弟 ●漁師 ●ガリラヤ・ベトサイダ出身

主にアジアやギリシアで布教。ローマ総督アイゲアテスにより投獄。X字型の十字架で処刑され、殉教。

大ヤコブ(ゼベダイの子ヤコブ)

 

大ヤコブ(ゼベダイの子ヤコブ)

●ヨハネの兄/ゼベダイの子 ●漁師 ●ガリラヤ出身

初期エルサレム教会の中心的存在。スペインで伝道後、エルサレムに戻るがヘロデ王に捕らえられ、斬首されて殉教。

ヨハネ

 

ヨハネ

●大ヤコブの弟/ゼベダイの子 ●漁師 ●ガリラヤ出身

アジアに宣教に向かうが、ローマ皇帝に捕らえられ、パトモス島に流刑。聖書の最後を飾る「ヨハネの黙示録」を記した。

フィリポ

 

フィリポ

●バルトロマイの友人 ●漁師 ●ガリラヤのベトサイダ出身

ヨルダン川の岸辺でイエスに出会う。イエス一行の食糧調達係。ギリシャやフリギアで布教した後、殉教。

バルトロマイ(ナタナエル)

 

バルトロマイ(ナタナエル)

●ナタナエル/フィリポの友人 ●ガリラヤ・カナ出身

フィリポに導かれ12弟子に。イエスに「真のイスラエル人」と賞賛される。広い範囲で宣教活動し、アルメニアで殉教。

トマス

 

トマス

●ユダ・トマス・ディディモ ●漁師または大工 ●ガリラヤ出身

イエスの復活を疑ったことから「疑心のトマス」と呼ばれる。東方に渡って布教活動に励み、南インドで殉教。

マタイ(アルファイの子マタイ)

 

マタイ(アルファイの子マタイ)

●レビ/アルファイの子マタイ/小ヤコブと兄弟 ●徴税人

各地で布教を行い、エチオピアまたはトルコのヒエラポリスで殉教。新約聖書の最初(巻頭)の書「マタイによる福音書」の著者。

小ヤコブ

 

小ヤコブ

●アルファイの子/マタイと兄弟

イエスの埋葬を手伝った敬虔な弟子。宣教に命をけずり、イスラエルの神殿で殉教。

タダイ

 

タダイ

●ユダ・タダイ/小ヤコブの兄弟または子

聖母マリアの妹クロパの子と言われている。アルメニアで布教活動を行なう。斧で殺害され殉教。

熱心党のシモン

 

熱心党のシモン

●反ローマ帝国の過激派組織 ●熱心党

エジプトで布教後、タダイと共にペルシアとアルメニアで布教。ペルシアで鋸で2つに切られて殉教。

イスカリオテのユダ

 

イスカリオテのユダ

●イスカリオテ出身

殺害をたくらむ反イエス派に銀貨三十枚と引換にイエスを裏切る。その後、後悔して自殺。しばしば、裏切り者の代名詞に。

マティア

 

マティア

●イスカリオテのユダの後任

イスカリオテのユダの後任として、12使徒となる。伝承によると、石打ちの刑さらに、斧で斬首されて殉教。

※ベトサイダは、ガリラヤ湖沿岸の漁村。

※イスカリオテは町名、族名、家系など、さまざまな説があります。


03/03

命がけの伝道活動

イエスが活動していた時代は、キリスト教はまだ独自の宗教といえるものではありませんでした。イエスの死後、12使徒をはじめ、伝道者たちが教えを広め、キリスト教が成立します。

教会はまず、エルサレムで誕生しました。その後、パレスチナから、小アジア(=現在のトルコのアジア部分)、ギリシャへと広がります。12使徒や伝道者たちは、激しい迫害を受けながらも、命がけの伝道活動を行ないました。

さらには、世界の中心といわれていたローマ帝国にも、イエスの教えは広まっていきました。当時、ローマ帝国は全盛期を迎えており、皇帝を神格化する「皇帝崇拝」が根付いていました。皇帝を崇拝しないキリスト教徒は異端視され、迫害を受け、殉教することも少なくありませんでした。12使徒のうち、ヨハネ以外の11人は、殉教したと伝えられています。

その後、12使徒たちも予想しなかった形で事態は急展開しました。313年、ローマ皇帝コンスタンチヌスによるミラノ勅令により、長年、キリスト教徒を迫害してきたローマ帝国が方針を転換し、キリスト教が公認されたのです。さらに、392年には、ローマ皇帝テオドシウスにより、キリスト教がローマ帝国の国教となりました。

徴税人

徴税人の写真

 

ローマ当局は、帝国内の各地で個人の徴税人に業務を請け負わせていました。毎年決まった額を当局に納めることになっていましたが、徴収方法は一任されており、余計に取り立てた分は徴税人本人の収入になりました。そのため、徴税人は担当区域の人々を脅迫することもあったようです。徴税人は欲が深くて、金に貪欲なものがなる仕事だと忌み嫌われていました。また、税金はユダヤの支配者であるローマに入るので、徴税人は裏切りものとして憎まれていました。

欧米人の名前

欧米人には12使徒や聖人に由来する名前が多くあります。ペトロに由来する「ピーター」、アンデレからは「アンドリュー」、大ヤコブからは「ジミー」や「ジェイムス」、ヨハネから「ジョン」、トマスから「トーマス」や「トム」、シモンからは「サイモン」などです。ちなみに、ビートルズのジョンは12使徒のヨハネ、ポールは伝道者パウロ、ジョージは聖人ゲオルギウスに由来します。女性のメアリーは、イエスの母マリア、エリザベスは洗礼ヨハネの母に由来します。

〔出典・参考〕
日本聖書教会「旧約聖書」/日本聖書教会「新約聖書」/創元社「聖書人物記」/日本文芸社「人物でよくわかる聖書(森実与子著)」/株式会社カンゼン「聖書の人々」/wikipedia/webio「世界宗教用語大事典」