トマス・ディディモマリアから聖帯を授かる
トマス・ディディモ
トマス・ディディモは、イエスの12弟子(12使徒)の一人です。現実主義者で疑い深いので、「疑心トマス」として知られています。それは、初めてイエスの復活の話を聞いたとき、信じなかったからです。トマスの前にイエスが現れ、脇腹の傷跡に手を触れたとき、始めてイエスの復活を実感しました。
疑心のトマスという不名誉な呼ばれ方をする一方、マリアの昇天時に聖帯を授かるという名誉な体験の持ち主です。イエスの昇天後は、インドやパルティア(ペルシャ)など、東方に渡って宣教活動に励み、最後は南インドで殉教したと伝えられています。インドの信者達は自分達を「聖トマスのキリスト信者」と自称している人も多く、トマスが教会の創始者として崇敬されていることがうかがえます。
※トマスの別名は、ユダ・トマス・ディディモ。「ディディモ」とは、アラム語で「双子」という意味です。
イエスの復活を疑ったトマス
イエスは処刑され、その3日後(3日目)に復活し、弟子たちの前に現れます。しかし、トマスだけは復活したイエスに会っていませんでした。
他の弟子たちにイエスの復活の話を聞いたトマスは「復活したイエスに会って、処刑されたときの傷口をこの目で見て、傷口に手で触れて確かめるまでは復活を信じない」と疑い深い性格をあらわにします。
そこに、こつ然とイエスが現れました。イエスは「信じない者ではなく、信じる者になりなさい」と言って、トマスに傷跡を触らせます。トマスは傷口に触れて、指を入れて、はじめてイエスの復活を実感します。そして「わたしの主、わたしの神よ」と叫びました。
さらに、イエスは「わたしを見たから信じたのか。見ないのに信じる人は、幸いである」とトマスを諭します。このエピソードがあったため、「疑い深いトマス(疑心のトマス)」とよばれるようになりました。
The Maesta Altarpiece-The Incredulity of St.Thomas/Duccio
疑心のトマス/ドゥッチョ 1308
十二人の一人でディディモと呼ばれるトマスは、イエスが来られたとき、彼らと一緒にいなかった。そこで、ほかの弟子たちが、「わたしたちは主を見た」と言うと、トマスは言った。「あの方の手に釘の跡を見、この指を釘跡に入れてみなければ、また、この手をそのわき腹に入れてみなければ、わたしは決して信じない。」
さて八日の後、弟子たちはまた家の中におり、トマスも一緒にいた。戸にはみな鍵がかけてあったのに、イエスが来て真ん中に立ち、「あなたがたに平和があるように」と言われた。
それから、トマスに言われた。「あなたの指をここに当てて、わたしの手を見なさい。また、あなたの手を伸ばし、わたしのわき腹に入れなさい。信じない者ではなく、信じる者になりなさい。」トマスは答えて、「わたしの主、わたしの神よ」と言った。イエスはトマスに言われた。「わたしを見たから信じたのか。見ないのに信じる人は、幸いである。」
©日本聖書教会「新約聖書」
マリアの昇天時に聖帯を授かる
イエスの母マリアが亡くなったとき、トマスはインドで布教中だったため、臨終に立ち会うことができませんでした。トマスが戻ったのは、マリアの埋葬が終わってしばらくしてからです。
トマスがマリアのお墓に行くと、待っていたかのように、マリアが昇天していきました。そのとき、トマスはマリアの昇天の真実を仲間に伝えるべく、マリアに証拠となるものを求めました。すると、マリアは腰帯を外して、トマスに向かって落とし、トマスがそれを受け取りました。
トマスは仲間たちにマリアが無事な身体で昇天して行ったことを伝えると、今度は逆に他の仲間たちが、トマスの話を信じませんでした。彼らは、マリアの墓を確認しにいくと、空になった墓がマナで一杯になっていました。そして、聖帯を見せられて、トマスの話を信じたと伝えられています。
東方へ布教活動。南インドで殉教
「疑心のトマス」と不名誉な呼ばれ方をしていますが、使徒としての活動は熱心に行っていました。トマスはインドやパルティアなど、東方に渡って宣教活動に励みます。53年頃に南インドのマイラプールで、異教の祭司長により剣で刺されて殉教したと伝えられています。現在もインドのキリスト教徒は、自らを「聖トマスのキリスト信者」と呼ぶことが多く、トマスを教会の創始者として崇敬しています。
※トマスはマドラス(現在のチェンナイ)近くのミラポアの教会に葬られたと伝えられています。またトマスがイエスの傷口に触れた指だけは、ローマにあるサン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂に保存されています。
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