「聖マティア」ピーテル・パウル・ルーベンス/1610~1612年
プラド美術館/スペイン
トリーア(※)の伝承によると、マティアは、ユダ族出身で、ベツレヘムの身分の高い家柄に生まれ、あらゆる知識を学び、律法や預言書に精通しており、仁徳の高い人物であったと伝えられています。イエスと共に活動した時間が長かったため、イスカリオテのユダの後任として、くじ引きで選出され、12使徒となりました。63年頃、エルサレムでユダヤ人によって石打ちの刑にあい、ローマ式に斧で斬首されたと伝えられています。
※トリーア…ドイツ南西部、ルクセンブルク国境に近いモーゼル川畔に位置するドイツ最古の都市。古典古代の歴史的建造物や美術工芸品が豊かな場所としても有名。
イスカリオテのユダはイエスを裏切り、後悔のあまり自殺をしてしまいました。12弟子(使徒)の欠員を補充(※)するため、使徒のリーダ的存在だったペテロは、使徒選考の会合を開きました。
※使徒が11人ではなく、12人でなければならない理由は、使徒たちがイスラエルの12部族になぞられているためです。
エルサレムの宿屋の2階で行なわれたこの使徒選考会には、現役の11人の使徒をはじめ、婦人たちやイエスの母マリアを含めて、120人もの弟子たちが集まったといわれています。
ペテロは、イスカリオテのユダがイエスを裏切って自殺したいきさつを述べ、イエスの活動中(※)、イエスと多くの活動をともにした弟子たちの中から新しい使徒を選び、主の復活の証人になるべきだと提案しました。そして選出されたのが、「ユスト・バルサバ」と「マティア」でした。
そして、ペトロが候補者2人について祈ります。「すべての人の心をご存知である主よ、この2人のうちのどちらをお選びになったかを、お示しください。ユダが自分の行くべき所に行くために離れてしまった、使徒としての任務を継がせるためです。」
そして、主の意思を聞くためにくじ引きが行なわれ、マティアが12使徒の仲間入りを果たしました。
※イエスの活動中とは、洗礼者ヨハネの洗礼からイエスの昇天までの間のこと。
現代では、くじ引きと言えば、軽率なイメージ(単なる確率や偶然、運などのイメージ)がありますが、ユダヤ教やキリスト教では、偶然はあり得ず、全ては神のコントロールによって起こると考えられていました。つまり、くじ引きの結果は神の判断であり、最善の結果であると見なされていました。使徒選考会に120人の弟子を集めながらも最後はくじ引きで選んだという事実は、12弟子たちの神への信仰の篤さを物語っているといわれています。
ちなみに、イスラエル王国の初代王もくじ引きで選出され、サウルに決定しました。
そこで、主イエスがわたしたちと共に生活されていた間、つまり、ヨハネの洗礼のときから始まって、わたしたちを離れて天に上げられた日まで、いつも一緒にいた者の中からだれか一人が、わたしたちに加わって、主の復活の証人になるべきです。」
そこで人々は、バルサバと呼ばれ、ユストともいうヨセフと、マティアの二人を立てて、次のように祈った。「すべての人の心をご存じである主よ、この二人のうちのどちらをお選びになったかを、お示しください。ユダが自分の行くべき所に行くために離れてしまった、使徒としてのこの任務を継がせるためです。」
二人のことでくじを引くと、マティアに当たったので、この人が十一人の使徒の仲間に加えられることになった。
※マティアに関する記録は、上記の新約聖書中の使徒言行録1章の当該箇所のみです。
マティアがギリシア北部のマケドニアに伝道に行ったとき、毒入りの杯を飲まされました。これを飲んだ者はみんな盲人になってしまいました。しかし、マティアはキリストの聖名を唱えながら飲んだのでその害を受けませんでした、そして、この杯を飲んで盲目になった250人を、按手によって目が見えるようにしたと伝えられています。
また、ある日、マティアは、逮捕され投獄されましたが、獄中にイエスが現れ、牢から解放されました。そして、異教徒を前にして神の言葉を伝えましたが、彼らは頑なに反抗しました。マティアが「偽神を信じる者は生きながら地獄に落ちる」と告げると、地面が裂けて偽神を信じる者たちを飲み込んだので、これを目の当たりにした人々はキリスト教を信じるようになったと伝えられています。
使徒となったマティアの活動等については「新約聖書」には記録されていません。伝承によると、ユダヤ各地で熱心に伝道を行ないましたが、議会に呼び出されたマティアは、石で打ち殺され、ローマ式に斧で斬首されたとされています。このとき偽証者に対する証拠として、その石を墓穴の中に入れてくれるように頼んだといわれています。ユダヤで亡くなったマティアの遺骨はローマに運ばれ、そこからトリーアに移されたといわれています。
墓の上の聖マティアの像/ザンクト・マティアス修道院
ドイツ・トリーアの西部
〔参考・引用〕
創元社「聖書人物記」/日本文芸社「人物でよくわかる聖書(森実与子著)」/株式会社カンゼン「聖書の人々」/wikipedia/webio「世界宗教用語大事典」/ヤコブス・デ・ウォラギネ「黄金伝説」