天使の梯子 ヤコブが見た夢
大英博物館(イギリス/ロンドン)
カナンからハランへ
ヤコブは兄エサウの長子の権利と神の祝福を奪いました。 これを恨んだエサウは、ヤコブを殺すことを企てます。 これを知った母リベカは、実家へ避難させるように取り計らいました。
リベカの実家は、ハランにあり、リベカの兄ラバン(=ヤコブの叔父)が住んでいます。
ヤコブの住んでいたカナン(ベエル・シェバ)からハランまでの距離は約750km(※)もあり、一人歩きの長い旅になります。
※750kmは概ね東京から山口(中国地方)までの直線距離です。
ヤコブがハランへ向かう途中「ルズ」の町で不思議な夢を見た。その地をベテル(神の家)と名付けた
ハラン
ハラン(ハッラーン)は、メソポタミアの北部の都市です。ヤコブの祖父アブラハムの故郷であり、ヤコブの母リベカの故郷です。アブラハムは神に導かれてカナンの地に定住していましたが、孫のヤコブは祖先の地へ逆戻りすることになったのです。
なお、聖書の中では、「アラム・ナハライム」、「パダン・アラム」という地名も登場しますが、これらは、いずれも「メソポタミア(ギリシア語)」のヘブライ語に相当します。
ヤコブの夢/天使の梯子
ヤコブがハランへ向かう途中のルズという町に着いたとき、日が暮れたので、石を枕にして野宿することにしました。その晩、ヤコブは不思議な夢を見ます。天に届くほど高い階段があり、天使が上り下りしているのです。そして、側には神がおられ、「あなたが今横たわっているこの土地を、あなたとその子孫に与え、あなたを守ろう」と言われて、ヤコブに祝福を与えたました。
この出来事は「ヤコブの夢」、「ヤコブの梯子」、「天使の梯子」などとよばれています。
ヤコブはベエル・シェバを立ってハランへ向かった。ある場所に着いたとき、ちょうど日が沈んだので、そこで一夜を過ごすことにした。ヤコブはその場所にあった石を一つ取って枕にして、その場所に横たわった。そのうちに、彼は夢を見た。見ると、一つの梯子が地に向かって立てられ、梯子の先は天に届いていた。しかも、神の御使いたちがそれを上り下りしていた。
さらに、ヤハウェが彼の傍らに立っていた。ヤハウェは言った「わたしは、あなたの父祖アブラハムの神、イサクの神、ヤハウェである。あなたがいま身を横たえているこの地を、あなたとあなたの子孫に与えよう。あなたの子孫は大地の砂粒のように多くなろう。あなたの子孫は西へ、東へ、北へ、南へと広がっていくであろう。そして、大地のあらゆる民族は、あなたとあなたの子孫によって祝福される。見よ、わたしはあなたと共にいる。あなたがどこへ行っても、わたしはあなたを守り、必ずこの土地に連れ戻そう。わたしは、あなたに約束したことを果たすまで決して見捨てない。」
目覚めたヤコブは、聖なる神に出会った驚きと恐怖にうち震えました。そして、ここは神の家だと悟り、枕に使った石を記念碑として立て、誓いを立てました。ヤコブは、その場所をベテル(神の家)と名付けました。
こうして神と出会い、神の存在を身近に知ったヤコブは新たな出発をしました。
ヤコブは眠りから覚めた。彼は言った「ああ、なんと、この場所にヤハウェがおられたとは。わたしは何も知らずにいた。」そして、恐れおののいて言った。「ここは、なんと畏れ多い場所だろう。ここは、まさしく神の家である。そうだ、ここは天の門だ。」
翌朝、ヤコブは朝早く起きて、枕にしていた石を取り、それを記念碑として立て、先端に油を注ぎかけた。彼はこの場所をベテル(神の家)と名付けた。ちなみに、この町の名はかつてルズと呼ばれていた。
ヤコブはまた、誓願を立てて言った。「神がわたしと共におられ、進む旅路において私を守り、食べ物、着る物を与えて下さるなら、そして私が無事に父の家に戻ることができるなら、ヤハウェこそがわたしの神となり、わたしが記念碑として立てたこの石を神の家とします。あなたがわたしに与えられるものはすべて、十分の一をあなたにささげます。」
/岩波書店「旧約聖書I 創世記」
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