長子権復帰ヤコブがエサウから長子の権利と祝福を奪う
次子ヤコブが「長子の権利」を奪う
イサクとリベカの双子は、すくすくと成長しました。兄のエサウは野山を駆け回る狩人となり、ヤコブは、天幕の周りの畑を耕す穏やかな人となりました。
父イサクは、エサウが持ち帰る獲物の肉を好み、気性の荒いエサウをより愛するようになりました。一方、母リベカは、天幕で気立てのやさしいヤコブと過ごす時間が多かったこともあり、ヤコブをより愛するようになりました。
Esau and Jacob were twin brothers
双子の兄弟 エサウとヤコブ
二人の子供は成長して、エサウは巧みな猟師、野の人となり、ヤコブは穏やかな人で天幕に住んでいた。イサクはエサウを愛した。それは猟の獲物が好物だったからである。リベカはヤコブを愛した。
ある日、エサウが一日中狩りをして、天幕に戻ると、ヤコブが煮物をしているところでした。エサウは疲れきっており、ヤコブが料理している煮物を食べさせるように要求します。すると、ヤコブは長子の権利を譲るように要求しました。疲れきって、空腹であったエサウは同意し、いとも簡単に長子の権利を次子イサクに譲ってしまいました。つまり、兄と弟の立場が逆転したわけです。エサウは長子の権利を軽んじていたようです。
ここで、長子の権利とは、父親（イサク）の死後、一族の指導的立場（族長の権利）を引き継ぎ、他の子供の2倍の財産を相続できる権利のことです。なお、長子の権利を長子の嗣業と表現することがあります。
Esau sold his birthright for some stew
エサウは長子の権利をパンとレンズ豆の煮物で売り渡した
ある日のこと、ヤコブが煮物をしていると、エサウが疲れきって野原から帰って来た。エサウはヤコブに言った。「お願いだ、その赤いもの、そこの赤いものを食べさせてくれ。わたしは疲れきっているんだ。」～彼が名をエドムとも呼ばれたのはこのためである。
ヤコブは言った。「まず、お兄さんの長子の権利を譲ってください。」と言った。エサウは「ああ、もう死にそうだ。長子の権利など、今の私に何になろう」とエサウと言った。
それでヤコブは「では、今すぐ誓ってください。」と言ったので、エサウは誓い、長子の権利をヤコブに譲った。ヤコブはエサウにパンとレンズ豆の煮物を与えた。
エサウは食べたり、飲んだりして、立ち去って行った。こうしてエサウは、長子の権利を軽んじたのである。
※エドム…原語では「アドム（赤いもの）」
次子ヤコブが「長子の祝福」を奪う
歳月が流れ、イサクは年老いて、神に召される日が近づいてきたことを悟ります。目もかすんでしまい、物の形の見分けがつかなくなっていました。イサクは、長子の祝福を与えるので、獲物を狩り、おいしい肉料理を食べさせて欲しいとエサウに頼みます。エサウはすぐさま狩りの道具を持って、喜び勇んで野に飛び出していきました。
Bring me some food and l will bless you
獲物を狩り、肉料理を食べさせてくれ。おまえに長子の祝福を与える
イサクは年をとり、目がかすんで見えなくなってきた。そこで上の息子のエサウを呼び寄せて、「息子よ」と言った。エサウが、「はい、ここに」と答えた。
イサクは言った。「見ての通り、わたしは、こんなに年をとったので、いつ死ぬか分からない。今すぐに、弓と矢筒など、狩りの道具を持って野に行き、獲物を取って来てくれ。そして、わたしの好きなおいしい料理を作り、ここへ持って来てほしい。死ぬ前にそれを食べて、わたし自らがお前に祝福を与えたい。」
Jacob and his mother plotted to trick Isaac
わたしが言うことをよく聞いてそのとおりにしなさい
ところが、母リベカは、エサウとヤコブの双子が腹中でぶつかり合っているときに受けた神の啓示（神の摂理）を信じていたので、神がより愛する次子ヤコブに祝福を与えられるように手を打ちます。兄エサウになりすまして長子の祝福を奪い取るように取り計らったのです。最初はためらっていたヤコブでしたが、母の決意を知り、従うことにしました。彼女はまずヤコブに祝福用の晴れ着を着せ、両手に毛皮を巻いて毛深いエサウに真似て変装させました。そして、長子の祝福を奪い取るべく、料理した仔山羊の料理を持たせ父イサクのところに運ばせました。すると、ほとんど視力を失っていた老父イサクは、ヤコブを長子のエサウだと思い込み、喜んで長子の祝福を与えました。
これにより、財産だけでなく、アブラハム（イサクの父）と神との契約内容（カナンの地や子孫繁栄）や兄弟や国を納めることなどもイサクに継承されることになりました。実際にヤコブには12人の息子が生まれ、この12人が、後にイスラエルの12部族の族長となりました。このため、ヤコブはイスラエル民族の祖といわれています。
わたしの子よ。今、わたしが言うことをよく聞いてそのとおりにしなさい。家畜の群れのところへ行って、よく肥えた子山羊を二匹取って来なさい。わたしが、それでお父さんの好きなおいしい料理を作りますから、それをお父さんのところへ持って行きなさい。お父さんは召し上がって、亡くなる前にお前を祝福してくださるでしょう。」
しかし、ヤコブは母リベカに言った。「でも、エサウ兄さんはとても毛深いのに、わたしの肌は滑らかです。お父さんがわたしに触れば、だましているのが分かります。そうしたら、わたしは祝福どころか、反対に呪いを受けてしまいます。」
母は言った。「わたしの子よ。そのときにはお母さんがその呪いを引き受けます。ただ、わたしの言うとおりに、行って取って来なさい。」ヤコブは取りに行き、母のところに持って来たので、母は父の好きなおいしい料理を作った。
Are you really my son Esau?
おまえは本当にエサウか？
リベカは、家にしまっておいた上の息子エサウの晴れ着を取り出して、下の息子ヤコブに着せ、子山羊の毛皮を彼の腕や滑らかな首に巻きつけて、自分が作ったおいしい料理とパンを息子ヤコブに渡した。
ヤコブは、父のもとへ行き、「わたしのお父さん」と呼びかけた。父が、「ここにいる。わたしの子よ。誰だ、お前は」と尋ねると、ヤコブは言った。「長男のエサウです。お父さんの言われたとおりにしてきました。さあ、どうぞ起きて、座ってわたしの獲物を召し上がり、お父さん自身の祝福をわたしに与えてください。」「わたしの子よ、どうしてまた、こんなに早くしとめられたのか」と、イサクが息子に尋ねると、ヤコブは答えた。「あなたの神、主がわたしのために計らってくださったからです。」
エサウの恨み
何も知らずに狩りから戻ったエサウは、鹿の肉料理を父イサクのところへ持っていきます。しかし、祝福を奪われたことを知ったエサウは、怒りに打ち震え、号泣します。イサクに自分にも祝福を与えてくれるように頼みましたが、一度祝福は取り消すことはできませんでした。
Bless me. me also O my father!
わたしにも祝福してください
イサクはエサウに答えた。「既にわたしは、彼をお前の主人とし、親族をすべて彼の僕とし、穀物もぶどう酒も彼のものにしてしまった。わたしの子よ。今となっては、お前のために何をしてやれようか。」エサウは父に叫んだ。「わたしのお父さん。祝福はたった一つしかないのですか。わたしも、このわたしも祝福してください、わたしのお父さん。」エサウは声をあげて泣いた。
長子の特権を奪われ、長子の祝福（神の祝福）も奪われたエサウは、激怒し、復讐を心に誓います。そして余命が幾許もない父が死んだらヤコブを殺そうと心に決めました。
Esau hated Jacob for what he had done.
エサウは祝福を弟に奪われ、ヤコブを恨むようになった
エサウは、父がヤコブを祝福したことを根に持って、ヤコブを憎むようになった。そして、心の中で言った。「父の喪の日も遠くない。そのときがきたら、必ず弟のヤコブを殺してやる。」
ヤコブの逃亡
母リベカは、エサウの思いに気づき、兄ラバンが住むハランの地（ナホルの町）へヤコブを逃がすことにしました。長子の権利（相続争い）の末、兄弟が離反することになったのです。
Jacob had to run away because of Esau 's anger
エサウが激怒しているため、リベカはヤコブを非難させた
ところが、上の息子エサウのこの言葉が母リベカの耳に入った。彼女は人をやって、下の息子のヤコブを呼び寄せて言った。「大変です。エサウ兄さんがお前を殺して恨みを晴らそうとしています。わたしの子よ。今、わたしの言うことをよく聞き、急いでハランに、わたしの兄ラバンの所へ逃げて行きなさい。そして、お兄さんの怒りが治まるまで、しばらく伯父さんの所に置いてもらいなさい。そのうちに、お兄さんの憤りも治まり、お前のしたことを忘れてくれるだろうから、そのときには人をやってお前を呼び戻します。一日のうちにお前たち二人を失うことなど、どうしてできましょう。」
Jacob continued on his journey to the East
ヤコブは東へ向かって一人旅に出て行きました
長子の権利と長子の祝福の違い
エサウは長子の権利を奪われ、さらには、長子の祝福までヤコブに奪われてしまいました。長子の権利というのは、いわゆる遺産相続（財産）であり、世俗的で、物質的なものになります。一方、長子の祝福は、アブラハムから引き継がれている神からの祝福になるので、こちらの方がより本質的で、重要な意味を持っています。
長子権復帰の摂理的意義
弟ヤコブが兄エサウから長子の権利と長子の祝福を奪ったことを「長子権復帰」といいます。
人間は堕落し、善悪の両面を同時に内包するようになった
神は我が子として創造された人間を最も愛しました。人間が創造される以前から、神と天地創造を共にしてきた天使長は、後から創造された自分よりも神から愛されるようになった人間を妬み、憎むようになり、人間始祖を誘惑し、堕落させました（善悪知る木の実を食べさせた）。その結果、本来は善なる存在（善のみ）であった人間に、悪なる要素が注ぎ込まれ、善悪の両面を持つ存在となってしまいました。 同時に天使長も堕落し、サタンと呼ばれる存在になり、この世の支配者となりました。本来はこの世は神を中心として人間が支配するはずでしたが、人類始祖が先の過ちを犯したため、この世はサタンが支配権を持つようになってしまったのです。聖書では、サタンを「この世の君」、「この世の神」と表現しています。
善悪分立の摂理
神は、悪なる存在に働きかけることはできないので、善悪を分立して救いの摂理を進められます。そして、悪の表示体（兄）が善の表示体（弟）に屈服する（心情一体化する・和解する）ことにより、人間を救うための条件（勝利基準）ができ、神の救いの摂理が進行します。
アダムのときには、アベル（弟）とカイン（兄）、ノアのときにはハム（弟）とセム（兄）、そして、アブラハム（イサク）のときには、ヤコブ（弟）とエサウ（兄）に分立し、次子（弟）を善の表示体、長子（兄）を悪の表示体として分立し、摂理を進めました。兄が悪の表示体となるのは、サタンは、神が創造された被造世界を、長子の立場から所有権を主張し、人類歴史をつくってきたため、神は、次子の立場から、その長子の嗣業を取り返してくる摂理をされるのです。聖書には、神が長子を憎んで次子を愛したとありますが、その理由はここにあるのです。
神は無条件に人間を救うことができない
人間自らが誘惑に負けて、悪なる要素を注入されてしまったため、人間が自らの努力で、悪を取り除き、創造本然の善のみを持つ人間に復帰するための条件を立てさせることが、神の救いの摂理です。サタンは天法（原理）を根拠に法廷論的（※）に讒訴してくるので、神は無条件に人間を救うことができないのです。
※神が「裁判官」、救い主（メシア）が「弁護士」、サタンが「検察官」に喩えられます。
困難な心情一体化
アベルは神への供え物を捧げることにより、善なる立場（善の表示体）を確立しました。そして、カイン（悪の表示体）が屈服すれば勝利基準ができるはずでしたが、カインはアベルを憎み、殺害してしまい、摂理は失敗に終わりました。
その失敗を取り戻す（蕩減する）ために、神はノアが選ばれました。ノアは神を心から信じ、方舟を建造し、神に捧げることにより、善なる立場を確立しました。ノアはアダムと違って堕落の張本人ではなかったので、ノアと次子ハムが心情一体化し、ハムがノアの嗣業を受け継いで、善なる立場（アベルの立場ともいう）を確立した上で、長子セムがハムに屈服すれば、勝利の基準が立つはずでした。しかし、ハムは父ノアとの心情一体化に失敗したため、摂理は失敗に終わりました。
ヤコブが勝利基準を立てて、摂理は進行
そして、アブラハムのときには、イサクの献祭で父と子が心情一体化することにより、イサクはアブラハムの嗣業を受け継ぎ、さらに、父アブラハムとともに雄羊を燔祭として捧げることにより、善の立場を確立しました。さらに、イサクの嗣業をイサクの次子ヤコブが受け継ぎ、善の立場を確立した上でイサクの長子エサウがヤコブに屈服すれば、勝利基準ができ、メシヤを迎える条件ができます。そのイサクの嗣業を受け継ぐ儀式が祝福です。そのため、祝福は兄エサウではなく、善の表示体である弟ヤコブに与えられなければなりませんでした。しかし、エサウは、長子の嗣業と祝福を奪ったヤコブを憎み、父が死んだら殺そうと決意します。カインがアベルを憎んだときと同じような状況です。このため、ヤコブはハランの地に避難します。しかし、21年後にヤコブがカナンの地に戻ったとき、愛でもってエサウを屈服させ、和解し、勝利の基準が立ちました。これにより、神の摂理が大きく前進しました。
