リベカ イサクの妻・ヤコブの母
Rebecca und Eliezer Bartolome Esteban Murillo 1652
ボルドー美術館/フランス
リベカ
リベカはイサクの妻であり、ヤコブの母です。アブラハムの兄弟の孫娘にあたり、ラバンの妹です。アブラハムの僕のエリエゼルがイサクの嫁として、ナホルの町で探してきた女性で、義母のサラと同様、とても美しい女性だったといわれています。イサクが40歳のとき結婚し、やがてリベカは双子の兄弟エサウとヤコブを産みます。
リベカは、いわゆる良妻賢母で、天から命を受けて、ヤコブが兄のエサウから長子の権限を奪い、長子の祝福をイサクより受けることができるように取り計らいました。リベカは、美しさとともに強かな一面も持ち合わせていたようです。その経緯は旧約聖書の創世記に記されています。
イサクの結婚相手の条件
アブラハムは神ヤハウェが約束した土地カナン(パレスチナ)に長らく定住し、140歳(※1)の老人となっていました。息子のイサクは、40歳になりましたが、まだ結婚していませんでした。そこで父アブラハムは、故郷ナホルの町(※2)の親戚からイサクの結婚相手を探すため、僕(しもべ)エリエゼルを送ることにしました。そして、エリエゼルはラクダ10頭と「高価な贈り物」を携え、旅立ちました。
※1:アブラハムは100歳でイサクを生み、イサクは40歳でリベカと結婚したと、旧約聖書に記録されていることから推定。
※2:ナホルの町:アラム・ナハライムの(ユーフラテス川とチグリス川にはさまれたハラン地方)にあった町。カナンとナホルの町は、およそ800km離れている。
アブラハムは、イサクの結婚相手(嫁)を次のような条件で探すように、僕のエリエゼルに命令し、誓わせました。とても重要な条件であったようです。
- カナン人でないこと (カナン人は異神を崇拝していたため)
- 故郷ナホルの町の住人(親戚)であること (つまり、ヘブライ人の血統を持つこと)
- カナンに連れてくること (カナンは、神との約束の地であったため)
アブラハムは多くの日を重ね老人になり、ヤハウェはすべてにおいてアブラハムに祝福をお与えになっていた。アブラハムは家の長老として彼の全財産を任せている僕に言った。「手をわたしの腿(もも)の間に入れ、天の神、地の神であるヤハウェにかけて誓いなさい。あなたはわたしの息子の嫁をわたしが今住んでいるカナンの娘たちの中から迎えるのではなく、わたしの親族のいる故郷へ行って、嫁を息子イサクのために連れて来るように。」
結婚相手をカナンに連れこなくてはならない理由
アブラハムは僕エリエゼルに、あくまでも嫁をカナンに「連れてくる」ようにと誓わせました。その理由は、息子イサクは、神ヤハウェが約束してくださったカナンの地を受け継ぎ、子孫を星の数ほど増やし、大いに繁栄させる使命があったからです。
また、カナンの娘の中から嫁を迎えることができない理由としては、カナン人は自然神を崇拝しており、偶像崇拝(※)を行う風習が根強くあったこと、ヘブライ人の血統を汚してはいけないことなどが挙げられます。
僕は(アブラハムに)尋ねた。「もしかすると、その娘がわたしに従ってこの土地へ来たくないと言うかもしれません。その場合には、御子息をあなたの故郷にお連れしてよいでしょうか。」アブラハムは答えた。「決して、息子をあちらへ行かせてはならない。天の神ヤハウェは、わたしを父の家、生まれ故郷から連れ出し、『あなたの子孫にこの土地を与える』と言って、わたしに誓い、約束してくださった。その方がお前の行く手に御使いを遣わして、そこから息子に嫁を連れて来ることができるようにしてくださる。もし女がお前に従ってこちらへ来たくないと言うならば、お前は、わたしに対するこの誓いを解かれる。ただわたしの息子をあちらへ行かせることだけはしてはならない。」
自然神の崇拝・偶像崇拝
ヘブライ人の神はあくまでもヤハウェであり、他の神を崇拝することは、ヤハウェを裏切ることになるため、決して許されるものではありませんでした。
アブラハムの子孫は大いに繁栄し、神の国・イスラエルを建国しました。しかし、イスラエルは衰退と滅亡を繰り返します。この原因について、旧約聖書の預言者たち(前8世紀頃)は皆、イスラエル民族がヤハウェ信仰を棄てて、バアル崇拝にうつつを抜かした結果であると断罪しています。
※バアル神…カナン地域で崇められた太陽神エルに次ぐ偉大な神。大気と慈雨の神。バアルはセム語で「主」「所有者」などの意味があります。
エリエゼルアブラハムの僕(しもべ)
エリエゼルは、アブラハム家の全財産を管理している最年長の僕だったといわれています。イサクが生まれる前には、アブラハムが跡取りと考えていたほど、忠実で謙遜な人物だったようです。
実は、エリエゼルいう名は聖書には記録されていません。旧約聖書/創世記第24章「イサクの嫁選び」、「イサクとリベカの結婚」は、聖書の中でも名場面とされているため、後年「エリエゼル」という名が与えられたのです。そして、多くの画家によって主題として選ばれ、好んで描かれ、広く知られるようになりました。
エリエゼルがリベカに出会う
エリエゼルがアブラハムの故郷であるアラム・ナハライムのナホルの町まで来ると、ラクダを井戸のそばで休ませました。夕方、そこへ水を汲みにくる娘たちを待つためです。そして、エリエゼルは井戸の傍らで次のような内容で神に祈りました。
「わが主人アブラハムの神ヤハウェよ。どうか、私にアブラハムの息子の妻となる娘に出会わせてください。わたしは今、御覧のように、井戸の傍らに立っています。この町に住む人の娘たちが水をくみに来たとき、その一人に、『どうか、水がめを傾けて、飲ませてください』と頼んでみます。その娘が『どうぞ、お飲みください。らくだにも飲ませてあげましょう』と答えれば、彼女こそ、あなたがあなたの僕イサクの嫁としてお決めになったものとさせてください。」
祈りが終わらないうちに、何人かの娘たちが水をくみに来ました。エリエゼルがその中の一人の娘(リベカ)は、水がめを肩に乗せていました。エリエゼルが神に祈ったとおりに「水がめの水を少し飲ませてください。」とその娘に声をかけると、エリエゼルの祈ったとおり「どうぞ、お飲みください。らくだにも水をくんで来て、たっぷり飲ませてあげましょう」と答え、ラクダのために水をくんで、すべてのらくだに水を飲ませてあげました。
エリエゼルは、その場で高価な装飾品(※)をリベカに贈りました。
リベカは、家族のもとに走っていき、金の装飾品を家族(母と兄のラバン)に見せながら、今あったことを話ました。それを聞いたラバンは、井戸(泉)のまで走りました。そして、エリエゼルたちを自宅に招待しました。
※金の鼻輪と美しい金の腕輪二つ=現代の価格にして約1,350ドル相当といわれています。
井戸端で嫁探し
アブラハムの僕(エリザエル)は、イサクの結婚相手を探しにナホルの町へ行き、「井戸端」で嫁リベカに出会います。さらに、イサクの息子ヤコブも、モーセも妻との最初の出会いは井戸端でした。当時、水汲みは女の仕事。若い娘たちは、日に何度となく水を汲みに井戸に行っては、お喋りするなど、束の間の憩いの場所だったようです。そのため、井戸端は男たちにとって、結婚相手を見つけるには、格好の場所(男女の出会いの場)だったようです。
リベカの快諾
エリエゼルはリベカの家族に、自分がやって来た目的、そして井戸の前で神に導かれるようにリベカと出会ったことなどを説明しました。そして、アブラハムからの贈り物(※)を差し出しました。
リベカの父ベトエルは、一部始終を聞いて、次のように言いました。
「すべては神ヤハウェの知恵から出たこと。私たちが良し悪しを言うべきことではありません。リベカはここにいます。どうぞヤハウェがお決めになったとおり、アブラハムの家のイサクの嫁になさってください。」
さらに、リベカもイサクとの結婚に同意し、家族はリベカをイサクのもとへと送り出しました。なお、リベカが、イサクと面識がないまま結婚を承諾したのは、彼が名の知られた裕福な家の出だと知っていたからといわれています。
イサクとリベカとの出会い
エリエゼル一行は、リベカを連れて、イサクのもとへ向かいます。一方、イサクは、夕暮れに、野原を散歩しながら物思いにふけっていました。ふと目を上げると、らくだの一行が来るのが見えたので、イサクは近づいていきました。リベカも彼に気づき、すぐにらくだから降りました。そして、彼が花婿であるイサクであることを知ると、急いでベールをかぶりました。(※)
エリエゼルは神ヤハウェに導かれながら、任務に成功したことをイサクに話しました。イサクはリベカを自分の母親の天幕に連れて入り、彼女を妻にしました。
そして、イサクはリベカをこよなく愛しました。そして、3年前に亡くなった母に代わる慰めを彼女から得ました。
※リベカがベールをかぶったのは、当時の若い娘の嫁入り作法にしたがったためといわれています。
イサクはネゲブ地方に住んでいた。そのころ、ベエル・ラハイ・ロイから帰ったところであった。夕方暗くなるころ、野原を散策していた。目を上げて眺めると、らくだがやって来るのが見えた。リベカも目を上げて眺め、イサクを見た。リベカはらくだから下り、「野原を歩いて、わたしたちを迎えに来るあの人は誰ですか」と僕に尋ねた。「あの方がわたしの主人です」と僕が答えると、リベカはベールを取り出してかぶった。僕は、自分が成し遂げたことをすべてイサクに報告した。イサクは、母サラの天幕に彼女を案内した。彼はリベカを迎えて妻とした。イサクは、リベカを愛して、亡くなった母に代わる慰めを得た。
日本聖書協会 新共同訳
リベカが身籠る
イサクの妻リベカはなかなか身籠ることはありませんでした。夫であるイサクは、子を授かることができるよう、20年間も根気強く、神ヤハウェに祈り続け、リベカは双子を身籠りました。
※同じようにイサクの父であるアブラハムの最愛の妻サラは、なかなか身籠ることなく、90歳(アブラハムは100歳)になってようやくイサクを産みました。
しかし、母リベカの胎内では、双子がまるで取っ組み合いをしているかのように激しくぶつかり合いもがいていました。リベカは非常に苦しみました。耐えかねたリベカは神ヤハウェに尋ねます。
すると神は、リベカには双子の命が宿っており、その子孫は、2つの国民の父祖になる。将来、両国の民は衝突するが、兄(エサウ)の子孫の国が弟(ヤコブ)の子孫の国に仕えるようになることを告げました。それを聞いたリベカは得心しました。
エサウとヤコブの誕生
その後、リベカは、神の啓示のとおり、双子の兄弟を出産しました。兄は全身が赤い毛で覆われておりエサウ(毛)と名付けられ、弟は、兄エサウのかかとをつかんだ状態で生まれたので、ヤコブと名付けられました。
エサウの名は、毛衣の「毛(セアル)」から名付けられました。エサウとその子孫が住んだ死海の南方の地は「セイル」と名付けられました。
ヤコブは、「踵(かかと)/アケブ」から名付けられました。
エサウとヤコブの誕生
※兄エサウの子孫はエドム人(現在のエジプト人)といわれています。エドムはアカバ湾から死海にかけての地名。当時はイスラエル(ヤコブの子孫が建国)と国境を接し、長年にわたって争いましたが、ダビデ王の代になってイスラエルに朝貢し、イスラエルの属国になったとされています。
リベカの墓マクペラの洞穴
リベカがいつ死んだかということは不明ですが、ヤコブがハランから帰郷する以前だったといわれています。リベカはマクペラにあった一家の洞くつ(現在のパレスチナ自治区ヘブロン)にアブラハムやサラと共に埋葬されました。そこには後にイサク、レア、ヤコブも葬られています。マクペラの洞穴は、ユダヤ教やキリスト教だけでなく、イスラームでも神聖視されています。
日本聖書教会「旧約聖書」/岩波書店「旧約聖書/創世記」/創元社「聖書人物記」/日本文芸社「人物でよくわかる聖書(森実与子著)」/株式会社カンゼン「聖書の人々」/wikipedia/webio「世界宗教用語大事典」/ものみの塔 洞察第2巻「リベカ」/河出書房新社「図説 聖書物語 旧約篇」/biblica/wikipedia